クリデラ・オテロ物語2巻

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*クリデラ・オテロ物語2巻
{np} クリデラ・オテロは暗い廊下を一人の男と歩いていた。
フリアムと名乗る男は、灯りを持ち前を歩いている。
クリデラは彼のことが気に入らなかったため話しかけなかったが、長い通路と長い沈黙に耐えられなくなったフリアムが先に口を開いた。
{np} [正直、私は常に君に感嘆していた。マスターが後援した29人の少年、少女の中でマスターが望むレベルまで到達した者は非常に珍しいからだ。だが、君はそのレベルだけでなく、それ以上を成し遂げた。
{np} 君と同じような歳で君と武芸を競えるような人はフェンサーマスターのソルシャ・ハートンを除いて恐らくいないだろう。ソルシャ・ハートンが箸を持つ前に剣を握るハートン家の者だという点を考慮すると、5年で今の成果は恐らく歴史上初めてだろう。]
{np} クリデラはその言葉に何だか我慢できずに言った。
[私を除いたその28人の中で、最も劣る人でも捨てられるような実力ではありませんでした。私はあなたたちが無駄に基準を高く設定したと思います。]
{np} [そのように思っているのか?だが、我々が高く設定していた基準は、君たちが成し遂げた実力ではない。何といえばいいか、忠誠心と誠実性そのようなものだ。それが無ければ、それが無くても文句がつけられないように実力が良くないといけないだろう。
{np} 正直に言うと、私は君がそこまで信頼できるような女性ではないと思っている。だが、まったく信頼できない人でもない。それに、確かなことは君は恐ろしいくらい優れた実力者という点だ。]
{np} [あなたは本当に変わった人ですね。武芸に長けていない人が自分に好意を持っていない人と二人きりの時も、全く恐怖を感じないのですね。]
{np} [実力者、強者、殺人者。このような人たちを毎日見るのが、闘技場の管理人たるもの。一々怖がっていたら仕事にならないだろう。なにより、絶対叶えたい夢があれば、恐怖のようなつまらない感情に流されない。]
{np} [確かにそのようですね。それを確実に教えてくれたのは、まさしくフリアムあなたです。確かにあなたは情けや道徳のような、いわゆる些細な感情からは自由のように見えます。]
{np} [そうだ、そのように鋭く心を研いでおけ。そうすれば、君が待ち望んでいる、我々から去る日が一日も早く訪れるだろう。だが、我々から去って何ができるのかは疑問だがな。]
{np} フリアムがそう言って足を止めた。
フリアムが目の前の扉を予め決めておいた通りに叩き、扉を開けると丈夫なテーブルとイス以外は何もない部屋にモンクマスターがいた。
{np} フリアムは中に入らず、クリデラ・オテロが中に入るとモンクマスターに会釈をし、扉を閉めて帰った。
[座りなさい。]
モンクマスターのオルファス・グリムが言ったが、クリデラは少し戸惑った。
{np} オルファス・グリムは苦笑いをしながら言った。
[そんなに戸惑ってどうやって私を殺すことができるのか?殺したい気持ちがあるなら実行しておくべきだったな。実力が無いわけでもないのに…。]
{np} クリデラはその言葉に返事をせず、椅子を引っ張り出して席に着いた。
[まだこの身を殺す自信が無いということか?まあ、それもあるかもしれないが、自分は貴族だというプライドが邪魔したかもな。]
{np} [雑談はここまでにして、何のご用でしょうか。]
[そうだな。手を尽くして君にふさわしい座を探してみたが、いいところがあまりなくてな。知っての通り、マスターの座というものはそんな簡単に空きが出るものではないから、当たり前の事だろう。
{np} だからといって、君をどこかの教団に入れたり、魔法を習わすわけにもいかない。だが、今回運よくいい機会がありそうだ。]
この言葉にクリデラ・オテロも興味を示した。
{np} [どのマスターが引退なさるのですか?]
[マタドールマスターだ。]
その言葉にクリデラの表情は固まり、こう言った。
[ですが私は、マタドールの技を修練したことがありません。そして、正直に申し上げると闘技場関連のマスターはあまり気が向きません。]
{np} [運がよければ他の座に空きが出るかもしれないが、下手すると君がおばあさんになるまで空が出ないかもしれないのがこの世界だ。だから、この機会を確実に手にしなければならない。そして、修練の件だが君ならマタドールとして必要な全ての事を習うのに長くはかからないだろう。
{np} そして何より、武芸だけ見たら君はこの系統のどのマスターの座に就いても問題はないだろう。君がソルシャ・ハートンのフェンサーマスターの座に興味があることは知っているが、あの子はまだ若くて実力もいいから難しい。悪い噂を流して揺さぶりをかけても変わることはないだろう…だから、この座を受けなさい。]
{np} [闘技場の他の関係者たち、何より、今のマタドールマスターの弟子たちが黙ってはいないでは?急にどこの馬の骨かもわからない人が、その座に就いたら…。]
[そこは私とフリアムが解決しよう。それに、君はあまり知らないだろうがマタドールマスターの周りの者たちも実は君のことが嫌いではないのだ。君は美しいからな。
{np} だから君が実力でも彼らを圧倒し、マタドールとして技術も劣らないと分かれば問題はないだろう。また、俺は一生をかけてマタドールの修練をしてきた彼らより、来年の今頃は君の方が強くなっていると思うぞ。]
クリデラはこれ以上何も言わなかったが、まだ承諾していないまま考え込んだ。
{np} モンクマスターがその様子を見て聞いた。
[何か引っかかることがあるようだが、話せないということは恐らく私も関係しているようだな。]
[ただ、マスターの間では私的な対決を禁ずるという王国法を思い出しまして…。]
{np} それを聞いたモンクマスターは声を出して笑った。
[ハハッ、そうだったかな?何を心配しているのか分かったぞ。しかし、マタドールは闘技場のマスターだ。私も闘技場によく出場する趣味を持ったマスターでもある。君には機会が十分あるだろう。
{np} だが、俺を殺したければ先に俺からの借りを返さなければならないのではないか?俺は君が借りを返す前は俺に何もできないということを確信していた。君の実力も実力だが、君のその価値観が気に入って最後まで面倒を見たのだ。]
{np} [5年!]
[何?]
[5年です。私の面倒を見てくれた時間が5年なので、これから後5年という意味です。その後はこれ以上私に何かを要求しないでください。]
{np} [おいおい。そうすると採算が合わない。俺が君に衣食住だけを提供したのであれば、それで十分だろう。だが、俺は君に最高の武芸の実力者になれるよう必要な全ての剣法を教え、訓練した。また、君の幼いころの借金だけでなくこれまでの君の一族の借金も精算して、それに…。]
{np} [5年、そして三つの任務。これ以上は言っても無駄です。]
クリデラがモンクマスターの言葉を大きい声で遮り、睨みつけながら断固たる口調で言った。
{np} オルファス・グリムはその目に負けじと、しばらく見つめてからほどなくして笑った。
[ハハハッ、いいだろう。5年間、私たちのために働いてもらおう。その5年が過ぎたら三つの任務を与えるから、それを成し遂げなさい。そしたら君は自由の身となる。君の一族に対する誇りを考えると、必ず成し遂げてくれると思うぞ。]
{np} [だからといって、何でも言われた通りにするというわけではありません。例えば、最後の任務でオルファス・グリムの命を守れみたいな任務は特に。]
[俺はバカではない。君にできること、君に断れないことをさせるつもりだ。5年間でも、その後の三つの任務でもな。
{np} それに、俺は君のような強い者と戦うことを避けるような人でもないし、弱くもない。俺が死を恐れる人に見えるか?俺が今こうして生きているのは、成し遂げたいことがあるからだ。決して死にたくないからではない。]
{np} [叶わない夢を何と言うのかご存知でしょうか…。]
[心行くまで皮肉っても良い。だが、その前にマタドールマスターになる準備を進めてくれ。その始まりはこの本を読んでみるといい。]
{np} そう言ってモンクマスターは何冊かの本を机に放り投げてから部屋を出て行った。クリデラ・オテロはその後もしばらく睨んでいたが、本を手に取って灯りの下で読み始めた。
{np} …前略…
王国の歴史で初めて闘技場と剣闘士が現れたのは、約900年前のメルキエル国王時代だ。
以降、闘技場と剣闘士は徐々に発展し、多様な下位区分を作り現在まで続いている。
{np} それから約300年前プリネル国王の在位中に、外部の風習が流入され闘技場に既存の剣闘士から枝分かれした様々な下位職業と違いのある新しい闘技場関連職業のマタドールが現れた。
{np} 少し詳しく記述するなら、我々の世界の動物や魔族、そして同じ人間の剣闘士を相手に戦闘と公演を行っていた闘技場で、魔獣を相手にする新しい形の闘技公演と戦闘が行われるようになった。
{np} 魔獣は同じ魔界に属している被造物ではあるが、魔族とは区別される知能を持っていないまたは低い野獣で、我々の世界には存在しない種類であり、魔界特有の動物と言える。
このような魔獣を相手にすること、その中でも闘技場で相手することは既存の我々の世界の動物を相手にする闘技公演をしていた剣闘士たちが経験したこととはまた違う技術と情報が必要なことだった。
{np} この時、王国外部の社会で魔獣を相手にした経験を持っていた部族社会が蓄積してきた情報と技術が、偶然にも王国の闘技場の関係者たちに知られることとなり、彼は自ら得た情報と技術を参考にし、魔獣を相手にするまったく新しい方式を考案した。
{np} これは完全に新しい形と方式の闘技場専従者の誕生だった。
彼は晩年まで自身が把握した王国外部技術に、自ら考案した技術を加え、最終的にはマスターの地位に就き、マタドールという新しい職種の立場を確固たるものとした。
{np} 初代マタドールが考案したマタドールの技術と方式は、実際の戦闘に必要な事項とそれを観覧客たちに見せるための芸能性を含めた総合決闘芸術だったと言える。
{np} そしてまた300年の時間が流れ、マタドールの技術も時間が経つにつれて変化することになる。
その中で最も大きい変化として、まさにマタドールの技術が魔獣を相手にすることだけではなく、一対一の対決にも強くなったことを挙げられる。
{np} マタドールはその進行過程で補助者たちの助けを受けたりもするが、最終的には単独で魔界の魔獣と戦わなければならなくて、このように強力な魔獣を一人で相手する過程で3世紀に渡ってそれに特化する方向で、より発展することになった。
{np} よって、現代のマタドールマスターは過去に魔界の魔獣を専門として公演していたマタドールとは違い、むしろ一対一の対決の専門家として、より大きい名声を得ることが多くなった。
…後略…
{np} そこまで読んだクリデラ・オテロは本を閉じ、他の本を見渡しながらこう言った。
[何もかも本を読んで理論だけで覚えろってことかしら?それは退屈だから明日からは観覧席でマタドールたちをよく観察してみよう…。]
{np} 独り言を終えたクリデラ・オテロは本をまとめ、灯りを消して部屋を出た。
本を夜通し読むのであれば、自分の部屋で読みたいと思ったからだ。

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